—絵本からどんな影響を受けました?
小池:「こどものとも」っていう福音館書店の月刊誌を子供の時にとってもらっていて。今日は何冊か持ってきました。実家にはこれの何倍も、何百冊もあるんですけど。長新太さんとかすごい好きなんですよ~。これは、お母さんが病気になっちゃったから、子供がサラダを作ってあげて元気にするっていう話。(「サラダでげんき」 角野栄子・作 長新太・絵)これは、からすが石けんをもってきて、森のみんなを行水させてあげるっていう話。(「からすのせっけん」むらやまけいこ・作 やまわきゆりこ・絵)これは、猫が遊びにきてねっていう手紙を風船で飛ばしたら、みんな自分に来たと思って、最終的にたくさんの猫が家にやってくるっていう話。(「おてがみ」なかがわりえこ・作 なかがわそうや・絵)
あと、これは民話。イチジクを落としたら庭で木になって、そこに鬼がやってきて、最終的には知恵比べで鬼をやっつけちゃうんだけど、最後けっこう怖くて。ほら、そいうのって、心に残るでしょう。(「ふくろにいれられたおとこのこ」堀内 誠一・絵 山口 智子・再話)私はこの本でイチジクが大好きになって、未だに一番好きな果物がイチジク。
—絵本を読んでいるとすごく楽しそうですね。そういうのって曲に反映されますか?
小池:子供の頃に見た景色を思い起こしながら曲作りをすることが多くて。母と一緒に散歩しながら石を拾ったり、花を摘んだり、そういう身近な自然と触れ合うことが、自分の感性のいしずえを作ったと思うので。自分の心の中にもぐろうとすると、子供の頃に感じたキラメキみたいなものをつかもうとするんですよね。そういうキラメキを、絵本からたくさんもらった気がしますね。
おばあちゃんにも、届くような音楽
—どういった音楽に影響を受けました?
小池:始めた当時よく聴いていたのは、サニーデイ・サービス*3。そこから、はっぴいえんど*3やその周辺の音楽を聴いて、最終的にビューティフルハミングバードの音楽性を決定づけたのは金延幸子*4ですね。
田畑:バックボーンは色々あって、僕はロックを聴いていたり、みっちゃん(小池さん)はクラシカルなものを聴いていたりとか、共通していたのはカーペンターズやユーミン。それら全部が最終的に今みたいなアコースティックな形になっていった感じですね。
—ビューティフルハミングバードの音楽には、大人にも、子供にもすっと入っていくような普遍性を感じますが、意識して作っていますか。
小池:最初はちょっとはありましたね。恋愛の歌とかは他に得意な人がいると思ったのであまり作りませんでした。自分が感じたことを表現するとなると、世界のつくりや、生命の不思議とか、そういうものに突き動かされて生きていることを音楽に投影できたらって思います。
音楽を聴いたり、絵画を見て感動したりするのって、子供の心になっていると思うんですよ。芸術に感動してわーって思うのと、なんて空が青いんだって思う子供の頃のあの感じは、同じかなって。
—田畑さんは、もともとはロック少年だったそうですが。
田畑:音楽を始めた頃は、できればエレキギターを低くかまえて、ゴリゴリな感じで演奏する姿をイメージしていたんですけど。でも、だんだんおばあちゃんの顔色をうかがうようになってきちゃって(笑)。
小池:おばあちゃんっ子なんですよね。
田畑:まわりの友達とか、やんちゃな不良が多かったんですけど。僕はどうしても、おばあちゃんと、お母さんが捨てきれなくて、不良になれなかったんですよ。結局、悲しませたくないっていうのがあって。それで音楽もそんな感じにシフトチェンジしてきちゃったんですよ。おばあちゃんとか、お母さんとかが、見に来ても大丈夫な音楽に。まあ、気持ちはロックなところも残しつつ。最新の『HORIZON』では、「じゃじゃ馬」という曲で、そういう気持ちも出してみました。子供達と触れ合う音楽は素直な反応が面白い
—これからの活動はどうなりそうですか?
田畑:ちょうど僕ら来年で10年目なんですよね。ベーシックはアコースティックっていうのがありつつ、そのなかでロックなこととか、二人だけの弾き語りとか。これからいろんなことできるかな。みっちゃんもCMでたくさんの歌をうたってたりするし。そういうのを、ハミングバードにフィードバックして。
小池:CMで自分たちが作らないような曲をいろんなところで歌わせてもらって、自分でいろんな引き出しに気づくことも多いですね。
田畑:本当に近年は子供達と歌をとおして触れ合う機会も多いので、作品としても絵本付きCDみたいなものもいいかなと思ったり。
小池:自分が子供の頃に感じたことの大切さを今になって実感しているので子供達にそういう体験ができる場を少しでも作れるようになれたら。
— もうその第一歩は踏み出してますよね。
小池:思った以上に、子供向けは体力いりますし。
田畑:すごいやりがいがありますよ。
小池:やった後、プールで2キロくらい泳いだ感じの、だるさが残るっていう。
田畑:子供達は、好き嫌いがはっきりしてますからね。あるライブに子供達が来てくれた時に、始まって1分くらいで、「つまんない!」って言われたときは、どうしようかと思いましたね。
小池:あの時は、心が折れそうになりましたね。この後30分くらいライブがあるのに、どうしようって。
田畑:とにかく、今はライブが一番面白くなってきましたね。
小池:いろんなミュージシャンがライブはどんなことがあってもやめられないっていうのがわかってきましたね。
*1 tupera tupera(ツペラツペラ)/亀山達矢と中川敦子によるユニット。たくさんの絵本で、知っているお母さんも多いはず。
*2 キチム/吉祥寺にある、カフェ、ギャラリー、ライブなど多目的に活用できるスペース。
*3 サニーデイ・サービス/曽我部恵一を中心に1995年にアルバムデビュー。若者や恋人達をテーマに透明なメロディーでその物語を描いてきた。00年に解散したが、08年には再結成し、現在も活動中。
*3 はっぴいえんど/大瀧詠一、細野晴臣、鈴木茂、松本隆により結成され70年にデビュー。解散後、ソロ活動の他、YMO、松田聖子のプロデュース、など個々に活躍し、現在のJPOPの礎を築いたといっても過言ではない。
*4 金延幸子(かねのぶさちこ)/デビューシングルを大滝詠一が、アルバム『み空』を細野晴臣がプロデュースした。フォーク色の強い音楽性で、日本の女性シンガーソングライターの草分け的存在。
ビューティフルハミングバード
2002年、小池光子と田畑伸明で結成。2003年にリリースしたアルバム『ビューティフルハミングバード』がロングセールスを記録、稀有な世界観と表現力が高く評価される。2006年、鈴木惣一朗プロデュースでメジャーデビュー。一方で、小池が数多くのCMや作品に参加。2011年10月19日にはニューアルバム『HORIZON』をリリース、全19公演に及ぶツアーを実施した。
2012/07/13
illustration: ユウコアリサ
interview :水木志朗