根底にあるのはきっと黒人音楽なんです
—それだけ、Eテレなどのお仕事をされながら、昨年の秋に『蟻と梨』という2枚組のアルバムを作られました。歌がある曲とインストゥルメンタル(楽器演奏)だけの曲が入っている2枚組ですが、大変なボリュームですね。
加藤:目の前の締め切りに追われて自分の事が後回しになって、前作から7年あいちゃいましたよ(笑)。歌詞がある曲も、インストも両方好きなんですよ。歌詞がある曲の時には歌詞と曲を同時進行で作るんです。なんでかっていうと、たいして言いたい事はないんです(笑)。だから歌いながらうかんだものは、その時の私にとっての大事な切れっ端なんですね。気になって目に焼き付いた風景とか瞬間を言葉と音で同時に形にしてるんです。
—加藤さんの音楽をこの雑誌を読んでくれている人に伝えるとしたら、何って言ったらいいですか?
加藤:自分でも聞かれて説明に困る(笑)。でも、最近は〝ちゃぶ台ジャイブ〟って言ったりしています。ジャンプとかジャイブと言う音楽があるんですよ。アメリカの音楽の変遷のなかで、ブルースからジャズの跳ねたリズムの要素が入って、その後ロックンロールになるんですけど、そのブルースからジャズ〜ロックンロールという流れの中の跳ねている音楽に、ジャンプとかジャイブっていうのがあって。その、跳ねているリズムがとにかく好きなんです。
特にジャイブは歌詞も割とコミック的な要素があって、日本でいうとクレイジーキャッツや、ドリフターズとか。笑える要素も取り込んでいるけど音楽もかっこいいみたいな。そういう感じにすごく魅力を感じるんです。アメリカで暮らしたことはないからアメリカ人のスピリットはわからないけど、ジャイブの感じを、日本語で、日本の景色で歌いたい。だから〝ちゃぶ台ジャイブ〟なんです。根底で、絶対的に好きなのはアメリカの跳ねているリズムの音楽なんですね。その大好きな感じを、日本の小さな町でやっている、というか。その跳ねたリズムの感じは、過去のアルバムでちょっとした変化もありながら、『蟻と梨』では、ほぼ全曲跳ねててもいいじゃないかみたいになりましたね。
いろいろな音楽を吸収しながら少し寄り道もしました
—小さい頃はどんな音楽を聴いてきたんですか?
加藤:小さい頃は、宇野誠一郎*2っていう作曲家が好きでした。『一休さん』とか『ムーミン』の主題歌を作ってた人なんですけど。その『ムーミン』の歌を聴いたときに、明るいのに暗いなあって。他の元気なアニメの曲と違うこの感じがすごいと思って。大人になって、それらは全部宇野誠一郎先生の曲だったっていうのがわかったんです。そこから、小学校の時は、聖子ちゃんとかも聴いて。6年生くらいでYMOのコピーバンドをやって。そこから何だかんだとずっとバンドはやってましたね。曲も作って。平行して20年間クラシックピアノをやっていたんですけど、反抗期ってこともあってそこに少し反発を感じてまして。それでジャズを聴いていました。デューク・エリントン、ウィリー・ザ・ライオンスミス、ファッツ・ウォーラーとか、セロニアス・モンク、カウント・ベイシーなんかですね。好きになる曲はたまたまみんな跳ねてた。だから今も、黒人音楽の跳ねたリズムが好きなんです。
—何か別の道へ行こうとは思ったことはないんですか?
加藤:少年王者舘*3っていう劇団に17歳くらいの時に、初めて見て入っちゃいました。劇団といっても演劇でもバンドでもない、不思議なところで。そういうことに夢中になったりもしました。でも結局やめて音楽に戻りましたけどね。今も時々公演を観に行ったりしていますよ。
—それから、メトロトロン*4のコンピレーションアルバムに参加していくわけですか?
加藤:そうなんです、少年王者舘がムーンライダーズ*5の鈴木慶一さんやあがた森魚*6さんとつながりがあって、それでコンピレーションを出すから参加しないかって誘われて、出しました。