vol.7 清田麻衣子/里山社、編集者

オチャノマートインタビュー

清田麻衣子/里山社、編集者satoyama_n1a2458photo 中野修也

 

世の中の周縁に「ある真理」が見える

みなさんにぜひ見て欲しいドキュメンタリー映画があります。
佐藤真監督の『まひるのほし』と『花子』という映画です。どちらも、障害者のアートをテーマにしています。
登場するアートはすばらしい作品ばかりです。
そして、何よりいいと思うのは見守っている親御さんや施設の先生の雰囲気です。
あたたかく、優しく、生徒が作りたい作品にそっとよりそっているのです。
一般の学校社会では生徒達は運動や勉強など何かといえば人と競争して比べられてしまいます。
唯一、点数がつけられない芸術でも、先生の指導が入り、こう描きなさい、こう作りなさいと言われてしまいます。
でも、この障害者アートの世界では、本当にみんなが自由に楽しそうに作品作りに取り組んでいます。
そして、一人一人が尊重されている感じが画面から伝わってきます。
そして、佐藤監督にも障害者のアートを優しく見守る目線があったから、
温かい雰囲気を感じ取り写し取ることができたと思います。
しかし残念ながら、その佐藤監督は2007年に亡くなられました。
たくさんのすばらしい作品を残されたドキュメンタリー映画作家でした。
その佐藤監督の作品を風化させてはいけない。今の時代にこそ佐藤真監督のような視点が必要だという想いで
『日常と不在を見つめて〜ドキュメンタリー映画作家 佐藤真の哲学〜』という本を作ったのが、
里山社の清田麻衣子さんです。
前置きが長くなりましたが、ぜひこの本をみなさんに読んでもらい、
佐藤監督の作品を一つでも見てもらえたらと思い清田さんにお話をお聞きしました。

 

カッコで括られた「障害者」ではなく、一人一人が見えてくる作品

◎今年の3月に佐藤真さんの本を出版されて、1年を振り返って反響はいかがでしたか?

清田 読んでくれた方にはとてもありがたい言葉をいただいています。

◎上映会などもたくさん開催されましたが、そちらの反響はどうでしたか?

清田 ドキュメンタリー映画は地味な印象もあるので、お客さんが来るかどうか心配してたんですが、蓋をあけたら連日立ち見になるくらい大盛況でした。佐藤真作品を過去のものとしてリバイバル上映するのではなくて、佐藤さんが考えていたことや姿勢みたいなものを、今の時代にどう捉えるかということを考える機会をつくりたかったんです。昔からのファンの方だけじゃなくて、大学生や初めて見る若いお客さんも来てくださったのですごく嬉しかったです。

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『日常と不在を見つめて〜ドキュメンタリー映画作家 佐藤真の哲学〜』(里山社)

◎オチャノマートの読者の方にぜひ見て欲しいと思ったのは、『まひるのほし』と『花子』なんです。2作品とも障害者アートをテーマにした作品で、障害者の人たちがアートを制作する姿を描写している作品です。周りの先生や家族の見守り方が温かい雰囲気でいいなと思ったんですが、この2作品は清田さんにとってはどのような作品ですか?

清田 私は特に『まひるのほし』は、それを題材に卒論を書いた作品なので印象深いです。大学当時、障害者の人が身近にいなかったので、どう接していいかわからなかったんです。そして、そのことに対して後ろめたい気持ちがありました。でも、この映画を観て、障害が特別なものではなくて健常者といわれる人も障害者と括られる人たちと、重なるものを持っているなって思いました。
この映画はカギカッコで括られた「障害者」ではなく、一人一人の人間が見えてくる作品なんです。彼らの中には、大きな声で叫んだり突飛な行動をとる人もいて、それが大変だなと感じる場面はもちろんあります。でも、その障害者の方々を佐藤さんはとてもチャーミングに描いています。
この映画ではアートを制作している障害者たちが登場しますが、その中でも象徴的なのはシゲちゃんですね。彼は、文庫本くらいのサイズの紙に、「スクール水着」「ジュニア水着」「カタナシ水着」などという言葉を直線的な文字で書きこんで、それをたくさん貼り付けた作品を作っています。その作品や人柄は、ちょっと笑ってしまうけど、寂しそうな表情を見せる瞬間もあり、そこが人間くさいんです。日常を突破する爆発力でこちらの概念をぶち壊すのがアートだと思うので、この映画ではシゲちゃんの存在そのものがアートになっていると思います。

◎障害者アートがテーマですが、アートだけでなく先生や家族など周りとの関係を描く場面も多い作品です。家族も先生も子ども達のやりたいことにていねいに付きあってサポートしている感じがオチャノマートとしても参考になりました。佐藤さんはアート以上に人と人の関係から見えてくるものに興味があったのでしょうか。

清田 シゲちゃんは道ばたで大声で叫んだりして周りから苦情が来たこともあったといいます。シゲちゃんのお母さんはものすごくまじめな人だったみたいで、それを気に病み、最終的には自死してしまったそうです。私は一度映画を見ただけではそれは分かりませんでした。でも、佐藤さんはわざとわかりづらくしているみたいなんです。普通のドキュメンタリー映画だったら、そこはドラマチックに描くために必要な要素だから使うと思いますよね。
でも、佐藤さんはそうはせずに肝心な部分はカットしています。お父さんとシゲちゃんがご飯を食べているシーンで「なんでお母さんいなくなっちゃったのかな?」とシゲちゃんが聞いていて、それからお父さんの独白になり、亡くなる前のお母さんのことを話していて、はっきりと死因は言わないまま、突然カットが替わりシゲちゃんが海に向かって「ヤッホー!みんな元気かー!」って叫ぶシーンになるんです。
そこに佐藤さんの意志が見えてくる気がしたんです。佐藤さんは、シゲちゃんのアートを通して、家族を見つめて生きることを描いていると思います。「物語化」をして悲しみにひたらずに、希望を持つという意志を感じるんですよね。希望というのは、意識しないとその方向には行かないと思うし、佐藤さんは覚悟をもって観客に投げかけていると思います。

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